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自然農法

  • 執筆者の写真: yasutaka oba
    yasutaka oba
  • 2024年9月15日
  • 読了時間: 4分

更新日:2024年9月17日


棚田の里の造形美は水田稲作農業がつくる。

農業ルネサンスのブログ

2022年の夏、愛媛県は中予地方に位置する東温市(とうおんし)を訪ねました。愛媛県で唯一海に面してなく、山間の狭小地に幾重にも棚田が連なる米どころです。この地域の米の美味しさは格別。国際的な米・食味分析鑑定コンクールで受賞したり、都道府県を代表する米に選出されるなどの折り紙付き。それだけではありません。

米の美味しさに加えて棚田の景観のなんとすばらしいこと!その佇まいや色合い、趣には息をのむばかりです。この地で有名な稲作名人がスイス山麓の農村を訪れた際のエピソードが自身のホームページに綴られていました。

「とても美しい農村風景に感動した私が現地の農業省担当者に農業とは何ですかと質問したところ “ここに農業がなければ森に戻ってしまう。この美しい景観が無くなってしまいますよ”と答えてくれました。即座に地元の棚田を思い浮かべ、棚田がなくなれば地域が無くなってしまう。棚田という農業景観は東温市の風景そのものであることを実感したのです」(抜粋)

名人の米づくりは景観づくりでもあり、とびきりの職人のなせる技なのです。今も昔も棚田の里の造形美は、水田稲作農業がつくっています。



圃場は完全無農薬・無肥料の自然農場。

この地域は河之内地区と井内地区、則之内(すのうち)地区とあわせて三内(みうち)と呼ばれ、収穫の頃、三内全体が黄金色に染まる風景は絶景だそうです。

私が向かった棚田は三内の最奥、河之内地区の山麓に開かれていました。東西に1.5ha、細長く延びた圃場に幾重もの棚田が連なります。そこで土にまみれ、ひたすら米と向き合う一人の老人を訪ねました。

圃場は完全無農薬・無肥料の自然農場で「こしひかり」を栽培し、その飯米を県内の酒蔵が日本酒として醸しています。徹底した自然栽培で有機肥料すら使いません。化学肥料や農薬が環境や人体におよぼすダメージから目をそらさず、ひたすら安全・安心な米づくりと向きあっていました。あれこれ加えたり足したりせず、必要なこと以外をどうしたら排除できるかに知恵を絞るのだそうです。

肥料など無くても森の木々がすくすくと育つのは土が肥沃だから。もし森に化学肥料を撒けば窒素をつくる微生物やバクテリアが働きを止め、やがて木々は枯渇していくことを、老人は頑なに信じて疑いません。


田んぼが肥沃な森の土のようになってきた!

老人は棚田の背後に迫る森を見つめながら噛みしめるように話します。

「農場では田んぼが森の土と肩を並べるまでなにもしません。なにもしないとは土が力を蓄えるまで、我慢と辛抱で立ち向かうということです。開墾して14年が経ちましたが、最初の3、4年は反当たり2~3俵程度しか穫れませんでした。たったの2~3俵です。病気もあり日々の悩みは尽きませんでした。元々こしひかりは倒伏しやすい稲ですが、肥料を与えなければ養分を求めて根は大きくなり、きっと力強い米に育つはず。でもそれは土づくりができてからのこと。つまり土づくりをしているあいだは、まだ自然栽培とは言えないのです」

老人は完熟堆肥も有機肥料も使わないまま7年を費やしました。その頃からだといいます。田んぼに目をみはる変化が起き始めたのです。

「大地を舐めるように目を凝らしたって、何が見えるわけでもないけれど、土のなかの微生物が稲と手をとりあい、お祭り騒ぎでも始めたかのように騒がしく感じた。肥沃な森の土に近づいている予感がした」

待ちつづけた者だけに湧く特別な感情を思い出しながら、老人は目を輝かせました。

農場はまだ発展途上ではあるものの株の張り具合や稲穂の大きさ、色艶などは年々たくましさを増してきて、噛めば噛むほど米の旨味が出てきたといいます。近隣の農家からは、ほんとは夜中にこっそり化学肥料を撒いてるんじゃないのかと。施肥が大前提の慣行農業では起こり得ない現実を、にわかには信じられないといった様子なのだそうだ。


日本酒は自然米で醸す時代へ。

私は自然農法がこれからの日本の農業を支えていくと考える一人です。誤解を恐れずにいえば、これからの日本酒も自然栽培の米で醸す時代が来るとも。現に米づくりから酒づくりまでを一貫して行う蔵元が増えてきました。課題や問題があることは承知です。

稲作はつらくきびしい労働がつづきます。苗作りから収穫までたくさんの人手を必要とします。収穫時期と酒づくりのタイニングの合わせ方も難しいでしょうから、悩みは尽きないはずです。でも日本の醸造家は誰もが知っています。米づくりと酒づくり、そして景観づくりという三位一体の取り組みがあってこそ、日本の風土が守られていくのだということを。百年先まで日本酒を絶やさないためには水田を守ることです。

愛媛県東温市の棚田は今年も収穫の頃を迎えます。黄金色に色づいた棚田の圧倒的な美しさに思いを馳せながら、今日も一献いただきます!



 
 
 

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